蜩(ひぐらし)
山の夕暮れは早いもので、昼を過ぎると西側は薄暗くなり始めます。その薄暗い木立の中で、カナカナカナという、ちょっと哀愁を帯びた蝉の声がしてきます。
皆さんご存知の蜩(ひぐらし)の鳴き声です。この蜩は、『万葉集』には「日暮足」とか「日晩」「日晩之」と記されています。
万葉の人々は、「カナカナカナ」と鳴く声に「日が倉に入ってしまいますよ~」「日倉し」「日暗し」という漢字を当てて、夕暮れを示していました。
紀貫之の「後撰集」には『ひぐらしの 声もいとなく 聞こゆるは 秋夕暮れに なればなりけり』と詠っています。
古代の人々は、虫の鳴き声にも耳を傾けるような自然との共生をしていたのでしょうね。
私たちは、蝉の種類によって、鳴き声を聞き分けています。ツクツクボウシは、「ツクツクホーシ」、ミンミンゼミは「ミーンミンミンミン」と、そして、アブラゼミは「ジーッジーッジーッ」クマゼミは、「シャーシャーシャー」と、特にクマゼミやアブラゼミの声は暑さを絞り出すように聞こえてきます。
そして最近の私の耳には「ジー」と蝉の声が聞こえてきます。何か夢中になっているときは聞こえてこないのですが、ボーっとしていると耳鳴り蝉が鳴きだします。
エイブルの木9月号より