鹿威(ししおどし)
田畑を荒らす、けものたちを追い払うために作られたものが鹿威です。
今は、日本庭園やお寺などで見かけます。水を竹筒に通し、一定の水量がたまると竹筒が傾き、水を吐き出し、もとに戻るときに竹筒が石を打つ音がします。一定の間隔をもって聞こえてきます。このような仕組みのことを鹿威と言うようです。
「しし」とは、獣(けもの)一般をさす言葉です。肉のことを「しし」といったことから、主に、肉を食用にした猪や鹿をさすようです。「鹿」の漢字を当てているのも、そういったことからでしょうか。
静かな空間に、コン・・・コン・・・と刻むリズムは、心地よい安らぎを醸(かも)し出してくれます。
けものを追い払うという意味より、静けさを演出する音と言った方がぴったりします。
人の耳は、無音よりは、耳馴染みの良い、自然に溶け合う音で、リズムよく聞こえてくる方が静けさを感じやすいのでしょう。
芭蕉の「奥の細道」にもそのように感じられる句があります。
『閑さや岩にしみ入る蝉の声』のように、蝉の声だけが響いていて、その蝉の声が、静けさを演出し、芭蕉が立ち寄った山寺の立石寺(りっしゃくじ)の静けさを一層深めてくれているようです。
エイブルの木7月号より 永池 守