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蚊遣火(かやりび)

蚊遣火(かやりび)

「蚊遣火」といっても、あまり知る人はいないかもしれません。「昔の蚊取り線香のごたっとさ。」と言われれば、「そぎゃんね。」と思うかもしれないですね。

当時の蚊遣火は、ヨモギや杉の葉、おがくずなどを手でまとめて下から火をつけ、息をフーフー吹きかけながら、煙をくすぶらせるだけの原始的なものでした。

この「蚊遣火」は、古今和歌集には次のように出ています。

『夏なれば 宿にふすぶる 蚊遣火の いつまで我が身 下もえをせむ』(夏になり、家でくすぶる蚊遣火のように、いつまで自分は外に思いを出さず、あの人を思い続けるのだろうか)―「恋の歌」

このフーフーと吹きかける息が、ため息に似て心の中で「ふすぶる」(くすぶる)だけの「忍ぶ恋」を暗示するものとなっていました。

しかし、明治以降、除虫菊で蚊取り線香ができてからは、ほったらかしても七時間もくすぶり続けるようになり、フーフーのため息にも似た作業はしなくてすむようになりました。

蚊取り線香が蚊遣火にとって代わり、恋を暗示させるということはすっかりなくなってしまいました。蚊遣火が変わったように、恋の形も変わってしまい、なんでもストレート。「忍ぶ恋」なんて吹き飛んでしまったようです。さらに現代は、蚊取り線香さえあまり見かけなくなり、恋の形はどうなったのでしょう。

                                    エイブルの木7月号より  館長 永池 守