憎たらしきもの~夏になるとどこからともなくブーンと羽音を立ててやってくる蚊
憎たらしきもの
「ブーン」という羽音を立て近づいてくる。うとうとしていると、網戸をしているのに、どこからともなくやって来て、耳に羽音が飛び込んでくる。
眠気眼で、耳元付近の蚊を追い払うために手でピシャリと叩く。
またしばらくすると、「ブーン」という羽音。あー、またかと思い同じ仕草でピシャリ。
ボーッとしては蚊が取れるはずもなく横っ面を叩くだけ。
憎たらしきことこの上もない。
清少納言も憎たらしきものの一つに挙げているのが「蚊」である。
枕草子には、『ねぶたしと思ひて臥したるに、蚊の細声にわびしげに名のりて、顔のほどに飛びありく。羽風さへ、その身のほどにあるこそ、いとにくけれ。』と。誰しも同じ経験があるのではないだろうか。
さて、この蚊は、どこから湧いて出てくるのかは、今では、誰でもよく知っている。水たまりに蚊が卵を産み付け、ボウフラとなり、それが蚊となって湧いて出てくるということを。
しかし、平安時代は、どこかに蚊母鳥(ぶんぼちょう)という鳥がいて、それが口から蚊をまき散らすと考えていたようだ。
そして、「ブーン」という羽音を表すために、「蚊」という漢字には、「文(ぶん)」という字が使われている。
白川静の『常用字解』によると、羽音から作られた漢字(形声文字)で、「文」が付いたことが面白い。
エイブルの木5月号「エイブルからこんにちは」
館長 永池 守